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福岡地方裁判所 平成4年(わ)150号 判決 1992年7月15日

被告人榮信株式会社及び同喜多堅につき

平成四年七月一五日宣告

裁判所書記官 島田勝男

被告人橋本清人につき

平成四年七月二〇日宣告

裁判所書記官 島田勝男

被告人藤髙豊につき

平成四年八月二六日宣告

裁判所書記官 島田勝男

本店所在地

福岡市中央区薬院三丁目一二番一四号

榮信株式会社

(右代表者代表取締役 喜多堅)

本籍

福岡県大川市大字榎津八九三番地

住居

同県糟屋郡宇美町大字宇美三二九七番地の三一

会社役員

喜多堅

昭和九年四月一日生

本籍

松山市北土居町四〇九番地

住居

福岡市中央区白金二丁目一二―一徳福ビル五〇一号

河野あい子方

会社役員

藤髙豊

昭和三二年三月一九日生

本籍

大阪市淀川区宮原二丁目一二番

住居

福岡市拘置支所在監中

受刑中

辻山こと 橋本清人

昭和三〇年三月二四日生

被告人榮信株式会社及び同喜多堅に対する各法人税法違反、同藤髙豊に対する法人税法違反幇助、同辻山こと橋本清人に対する法人税法違反幇助、詐欺各被告事件につき、当裁判所は、検察官日俣修及び玉岡尚志出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人榮信株式会社を罰金三八〇〇万円に、同喜多堅を懲役一年一〇月に、同藤髙豊を懲役八月に、同橋本清人を懲役一年六月に各処する。

一  被告人藤髙に対し未決勾留日数中二〇日をその刑に算入する。

一  被告人喜多に対してこの裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人榮信株式会社(以下、被告会社という。)は、福岡市中央区薬院三丁目一二番一四号に本店を置き、不動産売買及び食料雑貨輸入販売等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人喜多堅は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人喜多は、被告会社常務取締役塚元健兒と共謀の上、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、他人の不動産取引に関し名義を貸与することを業としていたエヌ・ケイ総合開発株式会社(以下、エヌ・ケイという。)及び有限会社フロンティア企画(以下、フロンティアという。)を利用し、被告会社の不動産売買を右エヌ・ケイ名義で行って被告会社に売買利益が発生しなかったように仮装したり、被告会社が不動産を売却するに当たり、被告会社と買主との間に右フロンティアが売買当事者として介在したように仮装して売上金額を過少に計上するとともに、それによって得た利益を仮名で預金するなどの方法により、その所得を秘匿した上、平成元年六月一日から同二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二二五万三〇〇二円、課税土地譲渡利益金額が二億九九三四万六〇〇〇円であった(別紙一修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年七月三一日、同区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八六一〇万三一三九円の欠損で、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額は零であって、既に源泉徴収された所得税額三五五円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億二九八二万四六〇〇円(別紙二税額計算書参照)を免れ、

第二  被告人藤髙豊は、被告人喜多らが判示第一のとおり法人税を免れるに際し、その情を知りながら、被告会社が西島シズエほか六名から同市博多区博多駅東一丁目二三四番所在の土地建物を転売目的で買受けるに当たり、右不動産の買主及び転売の際の売主がエヌ・ケイであるように仮装させるため、同元年二月上旬ころ、前期被告会社本店事務所において、塚元に対し、エヌ・ケイ代表取締役梛野清美を紹介して斡旋するなどし、更に、被告会社が、株式会社福岡企画(以下、福岡企画という。)に同市中央区唐人町一丁目二八番一ほか一筆の土地(以下、唐人町物件という。)を売却するに当たり、被告会社と福岡企画との間に売買当事者としてフロンティアが介在したように仮装させるため、同二年二月上旬ころ、被告会社本店事務所において、塚元に対し、フロンティアの代表取締役であった被告人橋本清人を紹介して斡旋するなどして加功し、もって、判示第一の犯行を容易ならしめてこれを幇助し、

第三被告人橋本清人は、

一  フロンティアの代表取締役として、被告人喜多らが判示第一のとおり法人税を免れるに際し、その情を知りながら、同月二〇日ころ、同市早良区西新一丁目八番一号所在の福岡企画事務所において、真実は被告会社が福岡企画に直接売却する唐人町物件に関し、フロンティアが福岡企画に転売するように仮装し、右不動産の売買契約書売主欄にフロンティアのゴム印及び代表者印を押捺して、売主を同会社、買主を福岡企画とする内容虚偽の不動産売買契約書を作成するなどして加功し、もって、判示第一の犯行を容易ならしめてこれを幇助し、

二  株式会社ライフ発行の岡村孝弘名義のクレジットカードを利用して商品購入名下に物品を騙取しようと企て、別紙三犯罪事実一覧表記載のとおり、平成三年三月八日ころから同月二〇日ころまでの間、前後一四回にわたり、大阪府豊中市寺内二丁目一三番一号原電気株式会社緑地駅前店ほか一三か所において、同店店員宮川勇仁ほか一五名に対し、同カードの正当な使用権限を有せず、同カード使用に伴う代金の支払の意思及び能力もないのに、これを秘し、あたかもこれあるかのように装って同カードを提示して、ウォークマン一台ほか三〇点の購入方を申し込み、同人らをして、その旨誤信させ、よって、それぞれ即時、同所において右宮川らから原電気株式会社ほか一二社所有のウォークマン等三一点(価格合計七六万四九八二円相当)の交付を受けてこれを騙取し、

三  前記クレジットカードを利用して無銭で宿泊することを企て、同月一四日午後九時三九分ころ、鳥取県倉吉市山根五四三番地一株式会社倉吉シティホテルにおいて、同ホテル係員石田勝彦に対し、前同様装って同カードを提示して宿泊を申し込み、同人をして、その旨誤信させ、よって、そのころから同月一五日午前八時ころまで、同ホテルに宿泊滞在して代金一万五六〇円相当の宿泊等の利便を受け、もって、財産上不法の利益をえ、

四  株式会社ジェーシービー発行の被告人名義のクレジットカードを利用して商品購入名下に物品を騙取しようと企て、別紙四犯罪事実一覧表記載のとおり、同年六月二五日から同年七月八日までの間、前後三回にわたり、兵庫県加古川市加古川町溝之口字案内五〇一番地の一株式会社ダイエー・デイーランド加古川店において、同店店員高橋恒子ほか二名に対し、既に同カードの使用限度額を超えているのにこれを秘し、同カードの正当な使用に伴う代金支払の意思も能力もないのに、あたかもこれあるかのように装って同カードを提示して、カメラ一台ほか六点の購入方を申し込み、右高橋らをしてその旨誤信させ、よって、それぞれ即時、同所において、右高橋らから株式会社ダイエー所有のカメラ等七点(価格合計一九万一六〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取し

たものである。

(証拠の標目)

判示第一ないし第三の一の各事実について

一  被告人喜多、同藤髙及び同橋本(平成四年二月二八日付け)の検察官に対する各供述調書

一  取税官吏の被告人喜多に対する各質問てん末書

一  塚元健兒、石丸伊重及び梛野清美(謄本)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の脱税額計算書

一  収税官吏作成の脱税額計算説明資料

一  収税官吏作成の各査察官調査書

一  登記官神野義視作成の平成四年一月八日付け登記簿謄本

一  押収してある平成二年五月期法人税確定申告書一綴(平成四年押第六五号の1)

判示第一の事実について

一  被告人喜多の当公判廷における供述

判示第二の事実について

一  被告人藤髙の当公判廷における供述

一  証人橋本清人及び同梛野清美の当公判廷における各供述

判示第三の各事実について

一  被告人橋本の当公判廷における供述

判示第三の一の事実について

一  証人藤髙豊の当公判廷における供述

判示第三の二及び三の各事実について

一  松田宏の司法警察員に対する供述調書

一  押収してあるJCインターナショナルカード一枚(前同押号の2)

判示第三の二の各事実について

一  神島弘二の司法警察員に対する平成三年六月一八日付け、同月二〇日付け及び同年七月四日付け各供述調書謄本(判示第三の二の別紙三犯罪事実一覧表番号2、3及び4を除く各番号。以下三―2の如く番号のみを略記する。)

一  宮川勇仁(三―1)、松浦純子(三―2)、種田尚(三―3)、松澤彰(三―4)、馬越高志(三―5)、梅林澄子(三―6)、花岡敏行(三―7)、山根澄子(三―8)、陰山照夫(三―9)、中居清子(三―10)、荊尾一志(三―11)、大谷行則(三―12)、古澤澄江(三―12)、神島弘二(平成三年七月二日付け、三―13)、三村裕明(三―13)、坂井悦子(三―14)及び岡村孝弘(三―14)の司法警察職員に対する各供述調書

判示第三の三の事実について

一  石田勝彦の司法警察員に対する供述調書

判示第三の四の各事実について

一  矢部哲及び岡博史の司法警察職員に対する各供述調書謄本

一  高橋恒子(四―1)、小沼滋子(四―2)及び原戸紀子(四―3)の司法警察職員に対する各供述調書

(確定裁判)

被告人橋本は、平成四年二月一〇日、神戸地方裁判所姫路支部において、詐欺、同未遂罪により懲役一年八月に処せられ、右裁判は同月二五日確定したものであって、右事実は、検察事務官作成の同被告人に関する前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人喜多の判示第一の所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年一〇月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

同被告人の判示第一の所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用した金額の範囲内で、被告会社を罰金三八〇〇万円に処する。

被告人藤髙豊の判示第二の所為は、刑法六二条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、右は従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、同法二一条により未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

被告人橋本の判示第三の一の所為は、刑法六二条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第三の二及び四の各所為は、いずれも刑法二四六条一項に、判示第三の三の所為は、同法二四六条二項にそれぞれ該当するところ、右各罪と前記確定裁判のあった詐欺、同未遂罪とは同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条により未だ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、判示第三の一の罪については所定刑中懲役刑を選択し、判示第三の一の罪は従犯であるから同法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第三の二の別紙三犯罪事実一覧表番号4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを同被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

一  被告会社及び被告人喜多について

本件は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していた被告人喜多が、被告人橋本ら所謂かぶり屋を利用して、平成元年六月一日から同二年五月三一日までの事業年度の被告会社の課税土地譲渡利益約三億円等を秘匿し、約一億三〇〇〇万円の法人税を免れたという事案であるが、脱税については逋脱額が相当多額に上り、逋脱率も一〇〇パーセントと極めて高率である上、所謂かぶり屋ないしB勘屋と称するダミー会社を利用して、ダミー会社名義で不動産を買い取り、被告会社に売買利益が発生しなかったように仮装したり、ダミー会社を被告会社保有物件の取引に介在させて、被告会社の売上金額を過少に計上したりするという極めて計画的かつ狡猾な手段を弄して、国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた点で、その刑事責任は重いと言わねばならない。

しかしながら、脱税が一期に止っていること、被告人喜多は、本件摘発後は、捜査官に対し、進んで真相を述べ、捜査に協力する等反省の態度も窺われ、また、被告会社は、既に福岡税務署に修正申告をなし、未だ本税等を完済するには至っていないものの納税計画を福岡国税局に提出してその保有物件の売却交渉を進める等納税に向けての努力をしていること等同被告人らにとって酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮すると、同被告人らを主文の刑に処するのが相当である。

二  被告人藤髙について

被告人藤髙は、所謂かぶり屋を紹介斡旋するなどして、榮信の約一億三〇〇〇万円の脱税を幇助したものであって、幇助行為二回を敢行し、八〇〇万円もの多額の報酬を得ていること、その幇助の結果、被告会社が逋脱した額は相当多額に上ること、同被告人は、昭和六三年五月には、詐欺罪により保護観察付き執行猶予とされ、社会内での自力更生の機会を与えられながら、保護観察期間中に、再犯に及んでいること、当公判廷でも必ずしも真摯な反省の態度が窺われないことなどを考えると、犯情悪質で、その刑事責任は看過すべからざるものがある。

しかし、本件は幇助犯であること、同被告人の母親及び内妻が同被告人の指導監督を公判廷で誓約していることなど、同被告人に有利に斟酌すべき事情も認められるので、主文の刑に処するのが相当である。

三  被告人橋本について

被告人橋本は、その経営する会社をダミーとして被告会社の不動産取引に介在させ、榮信の約一億三〇〇〇万円に上る脱税を幇助したほか、約四か月間に、大阪、愛知、鳥取、島根、岡山、兵庫の各地で合計一八件、被害総額約九七万円に上るクレジットカード詐欺をしたものであるが、法人税法違反幇助は、本犯である榮信の脱税額が相当多額であり、国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた犯行に多額の報酬目当てで積極的に加功した責任は軽視し難い。

また、クレジットカード詐欺は、短期間に、西日本の各地で多数回に亘って立て続けに敢行された計画的かつ常習的な犯行であり、被害額も少なくなく、被害弁償も済んでいないことなどを考え合わせると、犯情は芳しくなく、刑責は重い。

他方、同被告人は、各犯行について、その全貌を明らかにし、反省の態度を示していること、法人税法違反については幇助に止ることなど被告人に有利に斟酌すべき事情も認められる。

ところで、被告人は、前記確定裁判を受けているが、その事案は、平成三年七月一一日から同年八月一七日にかけて、広島、兵庫、岡山、大阪の各地で、未遂となった一回を含め、前後二四回にわたり、本件と同様の手口で商品多数(時価合計約一四〇万円)を騙取したというもので、本件で起訴された詐欺の犯行に引き続いて敢行されたものであるところ、その捜査及び審理の経過を見ると、被告人は、平成三年八月一七日、詐欺未遂の現行犯で逮捕され、本件を含む一連のカード詐欺に該当するカード使用の事実について取調べを受け、同年七月一一日以降の事件についてのみ起訴され、逮捕から約六か月を経過した平成四年二月一〇日、神戸地方裁判所姫路支部において懲役一年八月の実刑判決が言い渡されている。このような経過に照らすと、本件各詐欺事件はもとより、平成三年中に本犯の捜査がほぼ遂げられていた法人税法違反幇助事件についても、右確定裁判を受けた詐欺、詐欺未遂事件と併合して審判することが可能であったというべきである。そこで、本件と右確定裁判を経た事件とが併合して審判された場合の被告人の利益も考慮することとし、これらを総合考慮して主文の刑に処するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 甲斐野正行)

別紙一

修正損益計算書

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別紙二

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別紙三 犯罪事実一覧表

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合計 ウォークマン等三一点(価格合計七六万四九八二円相当)

別紙四 犯罪事実一覧表

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合計 カメラ等七点(価格合計一九万一六〇〇円相当)

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